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ロカリティ、交雑、生殖隔離


編集履歴

爬虫類に限らず、動物の交配において「交雑をすべきではない」「ロカリティ(採集地)は非常に重要で拘るべきである」「ロカリティを守った交配をすべきである」と言われます。
ですが「何故」を説明してくれている情報は、筆者が調べた限りにおいては多くはありませんでした。

本稿は筆者が「何故交雑をすべきではないのか」「何故ロカリティを守るべきなのか」という疑問を持ち、動物分類学の本などを参考に「こういうケースもある」という一つの説明となります。
よって本稿に記載した理由が「ロカリティを守るべき」「交雑をすべきではない」という、現在までに多くの方が仰っしゃり守る切っ掛けとなった元々の理由と同一かは不明です。

本稿は「交雑をすべきではない、ロカリティを守るべきである」理由としては適っていると考えていますが、筆者は生物学などの専門家ではありません。
あくまでも独学で勉強した事をまとめているに過ぎない事に留意して下さい。
もしも誤りがあればメールTwitterまでご連絡頂ければ嬉しいです。

1. 交雑をすべきではない理由

1.1 混ざったら元に戻せない

まず交雑をすべきではない理由として、特に調べなくても容易に想像がつくのは「元に戻せない」事ではないでしょうか。
コーヒーと牛乳を混ぜてコーヒー牛乳を作るのは簡単でも、コーヒー牛乳をコーヒーと牛乳に完全に分離するのが困難であるのと同じ理由です。

例えばある育種家が好奇心からハイブリッド(交雑個体)を作出したとします。
このブリーダーは「自分がちゃんと血統管理すれば問題ない」と考え、世に出してしまいました。
このブリーダーはちゃんとハイブリッドであることを明記し自分の手元では管理していましたが、ハイブリッドを購入した他のブリーダーがハイブリッドの子をどうするかは不明です。

意図してなかったとしても、いつの間にか市場の多くの個体が雑種になっていた。なんてことが有り得ます。

では、そもそもなぜハイブリッドが行けないのでしょうか?

1.2 雑種崩壊

生物には生殖隔離機構という、異種間の生殖を妨げる仕組みがあります。
仕組みには9種類あり、それぞれは生殖隔離機構で説明をしていますが、本稿では特に雑種崩壊について注目したいと思います。

雑種崩壊とは

雑種同士の交配や、雑種と両親のいずれかと戻し交配が起きても、その子供の生存力が弱く、性的に成熟する前に死亡してしまうような場合.
あるいは雑種を何世代にもわたって交配し続けると、雑種の任性と生存率が低下するような場合.

とされています。

筆者は2行目のあるいは雑種を何世代にもわたって交配し続けると、雑種の任性と生存率が低下するような場合.が、我々育種家にとっては非常に重要と考えました。

「1. 混ざったら元に戻せない」で想定した様なケースが起こった場合、F1~3では生存・生殖能力に問題が無かったとしてもそれ以上に累代が進んだ際ににこの雑種崩壊が起こる可能性があるからです。

色々な方に「なぜ交雑がいけないのか」を聞いた際に、「雑種は生殖能力がない筈」というお話を聞くことが出来ました。
しかし[翻訳] 異なる2種のレオパードゲッコーによる実験的異種交配という論文に書かれているように、オバケトカゲモドキヒョウモントカゲモドキのハイブリッドはF2までは生存・生殖能力に問題ない事が確認されています。

この雑種崩壊は種の組み合わせによっては起こらない事象です。何故ならばというのは、人間が目に見える形質を参考に分類しているものであり、生殖隔離機構が働くかどうか確認出来ていない事が多いからです(種と亜種の違いを参照).
ですが環境の変化等で自然に起こったことならまだしも、人間が交配する場合においてはこれは敢えて行うべき行為ではないと考えられます。

1.2.1 畜産との違い

牛・豚などの畜産業界、サラブレッドなどはある時期から全ての祖先を遡る事が出来るので、もし雑種崩壊が確認できた場合はその血統に連なる個体の交配を辞めるという手段が取れると思われます。
しかし爬虫類を始めとする多くのエキゾチック・アニマルの場合、血統書がありませんし、購入者個人が個体の祖先を遡れるような仕組みが用意されていない事が殆どです。

つまり「もし仮に」雑種崩壊が起こったとしても、先祖を遡って雑種ではない個体からやり直す事が出来ない事になります。
特にWCの流通が無い種にとって、この問題はより重大と考えられます。

2. ロカリティを守るべき理由

ロカリティとは採集地を指しますが、同一の種・亜種であっても同じ採集地での交配が推奨されているのは何故でしょうか?
これも恐らく雑種崩壊を未然に防ぐ事が目的と考えられます。

2.1 生殖隔離機構について

種と亜種の違いで詳しく述べていますが、種と亜種の分類学上の論理的な定義は生殖隔離機構の有無です。
種が違うと生殖隔離機構が働き生殖が出来ませんが、亜種だと生殖が可能です。

種・亜種の分類は定義上では「生殖隔離機構の有無」ですが、実際には見た目での分類となり、種にするか亜種にするかは分類学者に依って異なります。

2.2 後々別種になる可能性

また別種であったものが亜種になったり、亜種が別種になったりもします。
亜種とはなにかで具体的に述べてますが、亜種とは地理的品種であり、亜種として分類される条件は地理的変異パターンです。

つまり亜種の分類には生息地域が重要なファクターであるので、ロカリティもまた重要性が高いといえます。
なぜなら交配するペアの採集地が同じで見た目も大きな差が無ければ、現在〜将来においてそれは同一種で有り続ける可能性が高いからです。

逆に言うならば現在は細かく分類されていないものの、採集地が大きく異なる同一種は将来違う種・亜種に分類される可能性があると言えます。

2.3 雑種崩壊の予防

分類学という学問の問題だけではなく、見た目が同じに見えても採集地が大きく異なれば遺伝的には遠く、生殖隔離機構が働く可能性もあるのでロカリティを守る事で事前に雑種崩壊を防ぐ事が出来ると考えられます。
これはあくまでも「もしかしたら起こるかもしれない」という可能性に過ぎませんが、血統図などが無い、規制をする組織などがない現状を鑑みるとロカリティは出来る限り守るべきと考えられます。

3. 既に流通しているロカリティが不明な個体について

ここまでは「交雑すべきではない理由」と「ロカリティを守るべき理由」を述べてきました。
しかし市場にはハイブリッドと思わしき個体、ロカリティがはっきりとしない個体も少なくない量が流通しています。

本稿をここまで読んでくださった皆様に重要な事をお願いします。
そういった個体を不当に貶める様な発言をしないで下さい.

  • これらを交配を目的とせずに純粋にペットとして飼育されている方
  • 以前は同一の種・亜種とされていて交配していたら別の種・亜種になったケース
  • 論文や現地情報が誤っており、過去には交配が問題ないと考えられていた
  • そもそも自然下で交雑が進んでいる

など、様々なケースが考えられます。
あくまでも大切な事は

  • 表記をしっかりとする
  • 今から敢えて交雑、ロカリティ違いの交配をしない
  • 出来れば血統図を作成していき、購入者にそれらを渡す

事です。単に言い方の問題もありますが、本稿で書かれた情報を元に他人を不快にする様な発言は絶対にやめて下さい.

具体的に累代何世代目までいったら雑種崩壊が起こらないとは言えないようですが、十分に累代を重ねており今現在も問題が出ていないケースもあると思われます。
異なる採集地の個体の交配と解っている場合はそれを明記し、ロカリティが守られている個体と区別できる様にする事が重要ですが、ロカリティがまたがっている個体を貶める理由にはなりません。

繰り返しますが、今からロカリティを跨いだ交配を敢えてするのは避けるべきと考えられます。ですが既に十分に累代を重ねた血統は別物として扱い、今から混ぜなければ良いだけです。

個体を貶め他人を不快にする様な発言は辞めて下さい