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品種と系統の定義

編集履歴

ペットや畜産、実験動物の中には品種名や系統名が付けられる集団・個体が存在します。
品種(Breed)とは他の個体と区別できる何らかの特徴があり、それが次世代に遺伝する事が確実である等の定義があります。

品種は更に系統(Strain)、ライン(Line)、サブライン(Subline)に分類する事が出来ます。
また学問上正式な名称では無い様ですが、遺伝的な固定化を目指したプロジェクト(Project)という繁殖グループも存在します。

ただし本稿ではプロジェクトについては触れておりません。
これについてはヒョウモントカゲモドキの表記規則例7. プロジェクトを参照して下さい。

本稿では品種や系統の定義、そしてそれぞれの維持・構築方法をまとめる事を目的としています。

本稿の目的

  • 自身で出来うる限り細かく管理したい方への情報共有
  • 既存のライン表記されている個体同士の交配において、近親交配のリスクがあることの説明

これらが本稿の目的となります。
本稿の内容を誰かに強制する事や、本稿の内容をもって他者を攻撃することはお止め下さい。

注意点

以下の注意事項をよく読み、本稿の表記規則に沿ってないからといって他の方を攻撃しないで下さい。

筆者は育種を趣味・生業にする方々の中において、本稿の内容を強制するような立場にありません。

本稿は既存の表記規則に加えて筆者が育種学、畜産学、遺伝学、保全遺伝学、動物分類学の書籍を基に独自に分類・定義・再定義した事が含まれます。

但し筆者は育種を趣味・生業にする方々の中において、本稿の内容を強制するような立場にありません

また爬虫類の専門書、専門雑誌と比較すると本稿を読んで頂ける方は非常に少数となります。
よって本稿の内容をもって、他の方々を不快にするような行為はお止めください

特にショップの方々に、本稿の内容と販売個体の表記が違うなどクレームを入れる事は絶対にお止め下さい。
ショップの方々は入荷時の表記を変える様な事は基本的に出来ません。

あくまでも1つの参考例と考えて頂き、全てではなくても賛同して頂ける部分を取り入れて頂けたら幸いです。

それぞれの定義

まずそれぞれの定義は以下のようになります。

  • 形態、生理、能力などの点で他と区別しうるような特徴を持った遺伝集団が品種である
  • 品種の中でも更に他の個体と区別する特徴をもった遺伝集団が系統(Strain)である
  • Strainよりも更に血縁関係が近く、共通祖先までLineでさかのぼることの出来る遺伝集団がラインである

以下ではこれらをより詳細に説明していきます。

1. 種より下位の分類階級

動物の分類は国際動物命名規約に基づいて行われています。
この規約によって定められている基本的な階級は門・綱・目・科・属・種となりますが、種より下位の階級は設けられていません。

国際動物命名規約が制定されるより以前、動物学者は異常(aberration)、(morph)、品種(form, breed, race)、変種(variety)などの限定詞のもとに様々な種内変異に学名を付けていました。
ですが前述の国際動物命名規約の第1版(Stoll et al., 1961)でそれらの種内階級を除外し、亜種だけ残す事を決定をしました。

これは種内階級が増えすぎて混乱し、体系を作った当初の目的である多様性の単純化が危うくなった事と、亜種以外の階級名が何を指すのか分類学者によってまちまちであった事などが理由として挙げられています。

これらの理由により、動物分類学という学問で品種や系統の分類が行われていません。

参考: 動物分類学の論理

2. 品種(Breed, Race)の定義

品種(breed, race)は以下の様に定義されます。

同じ種に属する家畜から出発して、形態、生理、能力などの点で他と区別しうるような特徴を持った遺伝集団
-その集団のもつ特徴が遺伝的に固定されており、その遺伝的特徴を次代に確実に遺伝することのできる集団-

新家畜育種学 P.14

エキゾチックアニマルの世界では、主に体色に関する品種が多くを占めると思われます。

2.1 モルフと品種・系統

モルフと品種は異なるものです。

例えばアルビノが発現するモルフを指して品種と表記する事がありますが、これら単一遺伝する遺伝子を品種とは呼びません。
モルフという言葉は何を意味するのかについてはモルフの定義を参照してください。

アルビノやハイポメラニスティックなども体色に変化をもたらしますが、これら一つ単一遺伝する遺伝子は前述の様にモルフであり品種に分類されません。

影響の小さい多くの遺伝子が沢山影響して作れる表現型(例えばオレンジ色や黒色の体色など)を多因性遺伝、ポリジェネティックと呼びます。
この多因性遺伝というのは「単一遺伝と対の遺伝学の用語」であり、家畜そのものを分類するための言葉ではありません。

家畜そのものを分類する言葉は品種となります。

2.2 品種の例

エキゾチックアニマルにおける品種の例としてはヒョウモントカゲモドキのタンジェリンなどが有名です。

3. 系統(Strain)の定義

日本語で多くの場合に系統と呼ばれるものは、英語ではstrainlineと使い分けされています。
本稿では系統はStrainとし、ライン(Line)とは区別する事にします。

系統(Strain)は以下の様に定義されます。

系統とは、同じ品種から出発して、形態、生理、能力などの点で他と明らかに区別できる特徴をもった遺伝集団が形成される場合、これを系統と呼んでいる。
系統は系統交配、近親交配などによって造成される場合が多く、品種よりも相互の遺伝的血縁関係の近い集団である。

新家畜育種学 P.15

詳しくは後述しますが、StrainLineの最たる違いはLineで共通祖先まで辿る事が出来るという点です。
これは主に、各個体の血統書や血統図の有無となります。

3.1 StrainとLineの違い

系統をStrainと英訳しているのは主に実験動物の分野で、家畜(ペット含む)を扱う畜産分野ではLineと訳すのが多いように見受けられました。

実験動物の分野では近交系(inbred strain)が主に使用される為に、恐らくStrainが主となっているのだと思われます。
実験動物の系統はLineで辿ることも出来る為、近交系を目指している集団をLine Aと呼んで十分に累代を重ねた物をStrainと呼ぶ事もあるようです。

これは畜産の定義とは異なる部分です(畜産ではstrainよりもlineの方が近交系数が高い)。
本稿では畜産の定義に沿っていく事になります。

3.2 実験動物で使用される近交系という系統

実験動物の世界では系統の種類として近交系(inbred strain)とクローズドコロニー(closed colony)の2つが特に有名との事です。

近交系とは全ての遺伝子がホモ接合するように同胞交配を20世代以上繰り返した系統です。
これにより実験結果にゆらぎが出ないようにするのが目的と考えられます。

1) 近交系(inbred strain)
近親交配(inbreeding)を長期に渡り続けている系統である。
一般には兄妹交配(sister brother mating. sib mating)を20世代以上継続して行うことにより確立された系統のことをいう。

現代動物実験学 P.23

20世代以上の同胞交配が系統の定義のようですが、更に同胞交配を繰り返してより100%に近づける場合もあるようです。

近交系というのは同胞交配を繰り返す事により、全ての個体の遺伝子組成が同じになる系統になります。
40世代同胞交配を繰り返す事により計算上99.98%の遺伝子がホモ接合するので、遺伝子組成が同じとなります。

マウス実験の基礎知識 P.25

3.3 特徴の明文化

この様な系統の場合は恐らく個体をラインで先祖を辿るという必要性が少ない為、血統図の作成などは行われないのでLineではないという事だと思われます。
しかし系統名の命名規則がしっかりとしており、系統名を見るだけでその個体・集団がどの様に交配されたのかわかります。

そしてその系統の特徴がしっかりと明記されています。

例えばC57BL/6という系統ですと以下のような特徴が、調べればすぐにわかります。

黒色の体毛、黒い目をもつ近交系。
...
不安傾向は低く、新奇な場面での探索行動が多い。
また、モルヒネ感受性が高く、アルコール嗜好が見られる唯一の系統である。
Barberingという過剰な毛づくろい行動による脱毛が多く観察される。
高カロリー食による肥満、2型糖尿病、動脈硬化などに対する感受性が高く、骨密度が低い。
また喫煙による肺気腫の発症率が高い。
...

マウス実験の基礎知識 P.33

実験動物とペットでは様々な事情は違いますが、我々育種家もこの様に出来る限り特徴とその基準を記載していく事が大切と思われます。

4. ライン(Line)の定義

まず、日本人がラインと聞いて思い浮かべる「生産ライン(繁殖グループ)」とはかなり異なる意味である事に注意してください。

ライン(Line)を主に使うのはペットや畜産の場合が多い様です。
ラインの定義は以下のように記載されています。

系統よりも、更に遺伝的血縁関係が近く、共通祖先までlineでさかのぼることの出来る集団で、その形質が他集団と区別できる遺伝集団をlineと呼んでいる。

新家畜育種学 P.15

また以下のような記載もあります。

家畜の場合、系統とよばれるには、一応の尺度として集団内平均近交係数10~13%、血縁係数20~25%を有するものと考えられている。

新家畜育種学 P.106 ~ P.107

品種やStrainの定義も含めて箇条書きにまとめると以下のようになります。

  • 形態、生理、能力などの点で他と区別しうるような特徴を持った遺伝集団が品種である
  • 品種の中でも更に他の個体と区別する特徴をもった遺伝集団が系統(Strain)である
  • Strainよりも更に血縁関係が近く、共通祖先までLineでさかのぼることの出来る遺伝集団がラインである

共通祖先までLineでさかのぼる事が出来るとは血統図があることや、図は無くとも血統書などデーターベースがあり共通祖先まで辿ることが出来る事を意味します。

なお近交係数10~13%、血縁係数20~25%というのは、以下のような交配の組み合わせとなります。

  • 叔父と姪
  • 叔母と甥
  • 祖父と孫娘

4.1 エキゾチックアニマルのラインとの違い

上述の定義は畜産における定義であり、流通しているエキゾチックアニマルで表記されているラインの定義とは異なる場合が多いと考えられます。
物によっては一つの定義も満たしていない場合もあれば、育種家の手元では全ての定義を満たしつつも流通時に血統図がない(Lineで辿れない)ものもあるでしょう(勿論、すべての定義を満たしている希少なラインも存在すると思われます)。

本稿の目的はこれらの定義を他者に強制するものではありません

  • 自身で出来うる限り細かく管理したい方への情報共有
  • 既存のライン表記されている個体同士の交配において、近親交配のリスクがあることの説明

これらが本稿の目的となります。

4.2 ラインの維持と血統について

まず、ライン交配の特徴として新家畜育種学に以下のような記載があります。

b. 系統交配(line breeding)

...省略...

系統内での選別による交配では、後述する近親交配に比べて近交度の低い交配となるので、望ましい遺伝子を急速に固定することはむずかしいが、他方、不良遺伝子が急速にホモ化する危険性も少なくなる。
この交配法のねらいは、血縁的に近縁関係にある優秀な個体を、徐々に繁殖圏内に取り入れてゆき、すぐれた能力をもった繁殖集団を維持していこうとするものである。
育種過程において、急速に近交度を高める必要のない場合、また、強度の近交によって不良遺伝子が急速にホモ化するおそれのある場合などに採用される。

新家畜育種学 P.107

これに前述した特徴を踏まえると、必ずしもライン構築が始まった個体群(ペア・ハーレム)の純血を保っている訳ではないと考えられます。
というよりも、ライン交配というものがこれまで述べてきた通り外部の血を入れることが前提となります。

ペアリングは、両親と兄弟以外の親戚を含んでいることを条件とし、祖父/孫娘、祖母/孫息子、孫息子/孫娘、曾祖娘/曾祖息子、叔父/姪、叔母/甥、甥/ 姪、いとこ同士になります
系統維持法 http://breeders.fc2web.com/hbg/bd04.htm

種親の組み合わせが常に同じで且つ生まれてくる子供の数を増やす必要が無い場合においてはこの限りではないですが、 それではいつか種親が死んでその系統が絶えてしまいます。

種親を増やして行く場合、最初期の種親の子孫の組み合わせだけだと血が濃くなりすぎる(近交係数が上昇する)為、これもまたいつか系統が絶滅し絶えることになるでしょう。
よってラインに新しい新しい血を入れる事は避けられない事と考えられます。つまり歳月と共に他の個体の血や特徴がラインに含まれていく事になります。

新しい血を入れる(アウトクロスする)事で、アウトクロスF1個体にはライン特有の特徴は全く現れないか非常に薄くなっている筈です。
品種は小さい効果を持つ多数の遺伝子によって形成されますが、中には顕性もありますが潜性の遺伝子もあります。
潜性の場合は種親がホモ接合体でも、アウトクロスする種親には遺伝子が全くない筈なので、全てヘテロ接合体となるからです。

ですがこの様なF1個体を利用する事で、近交系数の上昇を抑えながらラインを維持・拡大出来ると考えられます。
ライン交配法の実例についてはラインの保持と構築方法を参照してください。

ラインの中でも顕著な特徴が現れた場合、または別系統の特徴を同時に発現出来た場合は亜系統(Subline)として更に区別する事が考えられます。

4.2 ライン構築の目的

ラインを構築する目的は、人間にとって有益な特徴を保持する事です。
ですが前述の様に、より発展させていくという目的もあります。

この交配法のねらいは、血縁的に近縁関係にある優秀な個体を、徐々に繁殖圏内に取り入れてゆき、すぐれた能力をもった繁殖集団を維持していこうとするものである。

新家畜育種学 P.107

実験動物と違い完全な近交系はペットや畜産では近交弱勢という問題がある以上は許容出来ません。
最初期の個体の特徴や表現を限りなく保持するという目的だけではなく、別にラインが発展していくと考えるのは間違いではないと思われます。

4.3 現在の問題点

しかし現在はアウトクロスに関して多くの疑問が投げかけられています。
また「原理主義」と呼ばれる方々の中には「純血主義」と言えるほど初期のラインの血統を大切にし、拘りを持つ方々がいます。

「原理主義」「純血主義」と書くと非常に潔癖な印象を受けますが、これは以下のような問題がある為に仕方がないと考えられます。

  • 他と区別されるラインの特徴の定義・基準が明確でない場合がある
  • 血統図が無い場合が多く、初期と表現が違う理由がわからない場合がある
  • 作出元ではないブリーダーが、アウトクロスF1に対してライン名をそのまま表記する場合がある
    • 更にアウトクロスされた片親の情報が解らない事がある
    • F1でないにしろ、ある程度累代が進むとアウトクロス表記や%表記をしなくなる場合がある

つまりラインとは何なのか、ラインの定義が育種家によって異なるのが原因です。

他の育種家が名付けたライン名を他者が付け販売しているが、その中身がわからない。
他者だけではなく作出した育種家すらラインの定義があやふやで、何を信じていいかわからない。

この様な現状では、純粋な血統に拘ざるを得ない場合も多々あると思われます。

しかし純粋な血統だけに拘ると、近交系数の上昇によってその系統が絶滅する事が考えられます(交配における近交化と近交弱勢を参照)。
よって少しずつラインを発展する目的で別系統との交配を進める、初期の表現型を維持するためにWCBなどとの交配を進めるなどが必要となってきます。

重要なのは手元の個体に、何処でどの様にどんな個体の血が新たに入れられたのか?が解る事ではないでしょうか。

あくまでも純血である事が重要なのではなく、Lineで祖先を辿ることが出来、健康に系統の特徴を保持する事が重要なのです。

4.4 アウトクロスF1について

アウトクロスF1とは、血縁関係の無いペアの子供を指します。
系統間交配、品種間交配と呼びます。

いわゆるポリジェネとは小さい効果を持つ遺伝子が複数ホモ接合する事で表れる表現型です。
その中でも他と区別出来る複数の遺伝子を持つのが系統となります。

顕性(優性)遺伝する遺伝子が含まれる場合もありますが、潜性(劣性)遺伝する遺伝子に関してはアウトクロスF1にはその表現が全く出ないことになります。
こう考えると見た目では判別できず、また全く別の血が作出元の意図とは関係なしに入った個体群をそのまま元のライン名で表記することには疑問が残ります。

個人的には同一品種別系統の場合は以下のような表記がふさわしいと考えられます。

品種: 品種名(系統名 x 系統名)

4.5 購入個体での交配について

既存のラインを自分でも維持しようとすると、多くの場合交配したい個体間の血縁関係が解らないという問題があります。

同一ブリーダーから同じラインの個体をペアで揃えたい場合、そのペアが兄妹なのか、異母兄妹なのか、異父兄妹なのか...という関係性が解らない場合が多いです。
つまり系統(ライン)交配ではなく、意図せずして近親交配を行ってしまう可能性があります。

4.5.1 想定されるケース

仮に購入した個体が兄妹だとします(計算を簡単にするために、購入個体の両親に血縁関係がないものとします)。

この購入した兄妹を交配した場合に産まれてくる子供の近交係数は0.25となります。
この子供をペアで販売し誰かが交配した場合、または育種家が親に掛け戻した際に生まれてくる子供の近交係数は0.375となります。

交配における近交化と近交弱勢に詳しく記載していますが、一般的な種は0.25から近交弱勢が見られるようになります。
本来、系統交配はこの様な近親交配は避けるために行われる交配法ですが、血統図がなく個体間の血縁関係が解らないために、知らず近親交配をしてしまう可能性があります。

計算を簡単にするために購入個体の両親の血縁関係は無いものとしていますが、実際は系統交配なので血縁関係があります。
購入したペアの子供がいきなり0.3を超えるケースも十分に考えられます。

4.5.2 既存ラインの利用方法

上述のような理由から、自分で既存ラインの保持をするのは非常に困難だと言えます。
作出元、作出元から血統情報などと共にコロニーごと購入した様なブリーダーでないと、本当に厳密な意味で既存を維持していくのは難しいでしょう。

自分の持っている繁殖集団に特徴を組み込む(アウトクロス)目的で購入し、系統名では販売しないのが最も多く利用出来るパターンと思われます。
ただし両親の情報としてどこで買ったどの系統であるか、血統図の作成に系統名を表記するのは望ましい事だと考えられます。

作出元またはコロニーを購入したブリーダーから血縁関係不明で購入したペアについては、そのペアで交配しても産まれた子供同士の交配については注意が必要です。
販売時にもこの点を伝えるのが良いと思われます。

勿論、作出元などから血統図や血縁情報込みで購入し、自分で近交系数のコントロールが出来る場合はこの限りではありません。

5. サブライン(Subline)の定義

新家畜育種学にはサブラインについては以下にように触れるにとどまっています。

lineがさらに枝分かれた集団をsublineと呼んでいる

新家畜育種学 P.15

正直これはでは何の事か全くわからないのですが、以下のサイトが非常にわかりやすかったです。

わずかな領域でもゲノムがまだ固定していない近交系が、分岐した場合どんなことがおこるでしょう?

...(省略)...

ゲノムの固定されていない領域が、2つの場所で、それぞれ別個に固定されることが予想されますし、実際そうなります。
そうなると、同じ近交系Aでも、X研究所の近交系Aと、Y研究所の近交系Aは、ゲノムレベルで異なることになります。

...(省略)...

そうすると、X研究所の近交系Aは、A/Xj とあらわすことができ、Y研究所の方は、A/Yj となります。
A/Xj と A/Yj、区別できましたね。

どぶねずみ王国: 亜系統 (substrain), http://takashikuramoto.blogspot.com/2013/10/substrain.html

これを愛玩動物の育種で考えると、作出元以外で繁殖されたラインの子供と考えられます。

ですがエキゾチックアニマルのラインに関しては、遺伝的な固定化という点について疑問があります。
実際にヒョウモントカゲモドキのラインに関しては、作出者が「ライン内の個体だが、クオリティ的にライン名をつけない」などがあるようです。

そういった事を加味すると今後、共通祖先までLineで辿れる等のここまで述べてきた定義を満たしたラインが流通した場合に、作出元以外の育種家がラインのペアを交配した子供に付けられる表記になると思われます。

同サイトではコードに関して以下のような記載があります。

ラボコードとは、研究所固有の標識みたいなもので、アルファベットの組合せからなります。
例えば、京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設であれば、[Kyo]です。
ラボコードは、重複がないように、国際的に管理されています。

どぶねずみ王国: 亜系統 (substrain), http://takashikuramoto.blogspot.com/2013/10/substrain.html

この様なコード(ブリーダーコードという名称にでもなるのでしょうか)を管理する組織がないので、コードの重複問題については今後の課題となりそうです。

6. 新しいライン構築の是非について

前章までと違い、本章は筆者個人の2019/02/28現時点での考察となります。
筆者の意見が180度変わる可能性がある事に注意して下さい。

ここまでは品種や系統の定義と現状の問題点を上げてきました。
ではどうしたら良いのか?というと、以下の2つが考えられます。

  1. 血縁関係が解り、近親交配を抑えながら繁殖が出来る場合は系統を維持する
  2. ライン名表記の或る無しに限らず、系統間交配や品種交配をし、特徴的な表現が出現し遺伝的に固定化出来たら新しいラインとする

1に関しては特に反論や異議は無いと思われますが、2に関しては多くの否定的な意見がありそうです。

6.1 考えられる問題点

例えばある品種の交配をしていく内に他と区別できる特徴が出たとしても、それがその個体特有のものなのか、両親がたまたま既存の系統の遺伝子をヘテロで持っていたのか不明です。
「もしかしたらこの特徴は既存の系統の遺伝子ではないのか?その可能性があるならば、新しいライン名を付けるのは問題があるのではないか?」という意見が考えられます。

これは本稿で繰り返し述べてきたStrainのようにどこでどの系統が加えられたのか解る、Lineのように先祖を辿る事が出来る、という様な事が全くできない事による問題です。

ですが、そもそも海外の大手有名ブリーダーが率先して(犬猫のような団体を作るまでせずとも)血統書や系統図を作り、販売時に添付していく文化を育てていればこの様な状態にはならなかったとも言えます。

6.2 一から再出発する

では今後一切新しいライン名を付ける事無く、品種名のみを記載していく事だけが正しい道なのでしょうか?
それは一つの選択肢であると思います。

ここまで述べてきたLineの定義を満たすのであれば、前述の様に「特徴的な形質の遺伝子の出処が不明である」と明記した上でライン名を付ける事は不誠実ではないと考えます(繰り返しますがLineとは単なる生産ラインや繁殖集団ではありません)。
また本稿を見ている人がライン名を付ける事をしなくても、世の中には無数のラインが生まれます。
現在のように交配された系統も不明で先祖を辿れないのにLineを名乗るよりは、既存系統の遺伝子の可能性はありつつも本稿で述べてきた内容を実践したLineの方が後進にとって遥かに有益ではないでしょうか。

重要なのは「ラインを作りたい」という欲求から変な定義をして無理やりラインを作らない事。
またライン構築の有無に限らず、自身だけでなく購入者も近親交配を避ける事が出来るように、手元の個体から血統図を一から作成し始め添付して販売する事と考えます。

6.3 本稿の終わりに

本稿の公開の有無に関わらず、今後ここまで厳密にやる育種家が主流になる可能性は低いと思われます。

また本稿の内容を悪用して、「本物のライン」などを標榜して適当なものを高値で売りつける人間が出てくる可能性があります。
血統図の必要性について繰り返し述べてきましが、公的な認定組織などがない為にいくらでも捏造する事が出来ます。

よって「名前だけで購入する」事は避けてあくまでも気に入った個体を買う、育種家を信用・信頼し過ぎず客観的に見るなどの注意をした方が良いと思われます。また本稿や本サイトも全面的に信用するのではなく、間違った事を書いてないか?という目線も持って頂ければとありがたいです。

ですが「出来る限り厳密に育種をしたい」という人も一定の割合が居るのも確かで、そういった方々にとって本稿及び本サイトが微力になれば幸いです。